アパラチアントレイルで出会う、
自然と人、道具の楽しみ
——上出遼平 × 阿部裕介——
アメリカ東海岸を縦断する長距離トレイル、アパラチアントレイル(AT)での出会い、道具、そして自然の中の冒険 ——この夏、5泊6日のセクションハイクに挑んだ二人の会話から、ATの魅力が生き生きと伝わってくる。
アパラチアントレイルを選んだきっかけ
――どうしてアパラチアントレイルを歩こうと思ったんですか?
上出:ロングトレイル文化を知るのと同時にアパラチアントレイルを知って、いつか歩くことになるんだろうなと結構前から思っていました。いま住んでいるニューヨークからのアクセスもよくて、去年3人(上出遼平、仲野太賀、阿部裕介)で歩いたのが初めてのATでした。阿部ちゃんは俺より思い入れが強いよね?それはなんでなの?
阿部:僕は大学生の頃、加藤則芳さんの本『メインの森を目指して』を読んで知ってはいたけど、正直その頃はあまりATを意識していなかったんです。去年、上出さんと太賀くんと歩いたATは過酷だったけど本当に楽しくて、本格的に面白さを実感しましたね。
ロングトレイルが彼らを惹きつける理由
――二人が思う、アパラチアントレイルの魅力とは?
阿部:道具や装備に制限がある分、自然とサバイバル感覚が生まれるんです。これまで何度も通ってきたネパールの山では山小屋泊なので食事も寝具もいらないけど、ロングトレイルでは食料や浄水器まで全ての道具を持っていく必要があって、そのサバイバル感覚がもう男心をくすぐるというか…
上出:しかも1回目のATが本当に過酷だったじゃない?(*2人が去年初めてATを歩いたのは4月上旬。山にはまだ雪が多く残っていた。)道具が基本的に足りてなかったから、一般的なロングトレイルよりかなり工夫を要する状況だったよね。エマージェンシーシートで即席テントを作ったり、工夫しながら1個1個解決していくのが、すごく楽しかったんだよね。
阿部:今改めて考えたけど、ほんとそういうことだね。
上出:工夫して解決していくこと自体に喜びがあるっていうのは、普通に都市で暮らしているとあまり思わないし感じないけれど、実はそこに結構人間としての喜びがあるということを、山にいると感じられるよね。
阿部:ATはロングトレイルの楽しさもあるけど、自分が最も撮ってみたかったような人たちが続々と、しかもみんな個性的な格好で現れてくるから、それがもうドンズバだった。歩きたい、写真が撮りたいのミックスというか。
上出:魅力的な人たちがたくさんいたね。我々はセクションハイカーだけど、合計で約3,500kmを歩いている道中のスルーハイカーにも出会った。僕らが歩いたのは真ん中辺りだったから、彼らは大体3ヶ月ぐらい既に歩いている状態で遭遇したわけだけど、そうすると、それぞれの不要なもの・必要なものがスタイルに完全に表れていたね。阿部ちゃんが撮影した“セブンス”も、7ポンド以下だっけ?
阿部:そう、7ポンド(約3.18kg)以下の荷物だけで歩いてた。
上出:彼は『日帰りハイクに行きます』みたいな装備だったけど、寝具系…テントとマットと寝袋だけはちゃんとしていたね。着替えや食事はどうでもいいけど、眠りだけはちゃんとするってことが道具から伝わってきて、そういうのも出会う人それぞれが違って、面白かったね。
二人が選んだ、装備のこだわり
まずは靴。上出さんと阿部さんが今回着用したのは「Altra×and wander LONE PEAK 9+」。上出さんはこれまでもアルトラを愛用、阿部さんは2足目で、二人とも歩きやすさに加えて軽量でありながらグリップ力の高さ、水に濡れても乾きやすい点を気に入っていると話す。
上出:僕は歩き方に癖があるので、指先を締め付けられる靴だとすぐにマメだらけになってしまう。アルトラは指先のスペースが広く、リラックスして履けるので、不満はないですね。今季から初めてソールがVibram(ビブラム)のメガグリップに変わっていますが、1度も滑ったりしなかった。
阿部:がれ場や急斜面で、足をまっすぐ下ろしても全然大丈夫。安定感抜群で濡れてもすぐに乾くし、最高でした。今回のand wanderカラーも可愛かった。
上出:テント場で過ごすときに、今までの登山靴だと靴を履きたくなくてサンダルにしたくなるんですが、この靴は紐を解いてスリッパみたいにリラックスして履いていられたのもよかった。極端な話、サンダルやリラックスシューズの重量を削れるんじゃないかな。
上出:バックパックは今回久しぶりにHMG(Hyperlite Mountain Gear)のSouthwestを背負ったけど、ノンストレスで本当に良いバックパックだと思った。腰でガッチリ固定すると重さを感じづらいから、重い荷を背負う人にはフレーム付きがおすすめですね。
阿部:僕は使い慣れてるZpacksのArc Zip Ultra 62L。文句なしです。あと、PERTEX quantum airのジャケットも快適だった。軽くて通気性が良く、多湿で虫の多い環境でも着やすかったです。
上出:PERTEX ファブリックでダウンを包んだ軽量ベストも良かった。夜だけ冷え込む山行にも携行ストレスなく、肌触りも抜群でした。
――道具にこだわりのある上出さんは、ニューヨークで山道具のお店を出すそうですね。
上出:ニューヨークは意外とすぐに大自然にアクセスできるし、大都市に暮らす人ほど山や自然を求めていたりするのですが、一方で、僕らが求めるシンプルで強くて軽い道具を扱うお店がほとんどなく、みんな結局ネットで購入してるんです。でも靴やバックパックってやっぱりフィッティングが大事なので、実際に触って選べる場所を作ろうと計画中です。そこでいろんな情報も共有できるといいなと思ってます。外国からアクセスできる日本のトレイル情報もまだ少ないので、日本の魅力的な山情報も紹介したいですね。
――お二人はまたアパラチアントレイルを歩きますか?
阿部:次行けるなら、半年くらい歩いてみたいなぁ。いま、ATを歩き始めた日から1ヶ月くらい経つけど、あの時出会ったセブンスや他のスルーハイカーたちは未だに歩いてるわけだよね。
上出:すごいことだよね。ゴールまでまだまだでしょう。俺も久しぶりに1人で長い山歩きしたいなって思ったんだよね。みんなで歩くのももちろん楽しいけど、1人の自由さも欲しくなってくる…スルーハイカーはみんな一人だし。
阿部:わかるわかる。確かに一人歩き、俺もしたいなってちょっと思っちゃったね。
上出:こないだBIG AGNESの新しいテントを買っちゃいました。だからもう歩きたいです。
上出遼平
東京都生まれ。映像作品に『ハイパーハードボイルドグルメリポート(テレビ東京、U-NEXT)』『TRAIL 地球イチ美味い酒を求めて(YouTube)』、書籍に『ハイパーハードボイルドグルメリポート(朝日新聞出版)』『歩山録(講談社)』『ありえない仕事術(徳間書店)』『MIDNIGHT PIZZA CLUB(講談社)』、ポッドキャスト作品に『ハイパーハードボイルドグルメリポート NO VISION』『上出遼平 NY御馳走帳』『UNCOVER 新章 未解決事件現地調査』『BAD PHARMACY』など。
阿部裕介
1989年東京生まれ。写真家。青山学院大学経営学部修了。大学在学中より、アジア、ヨーロッパを旅する。在学中、旅で得た情報を頼りに、ネパール大地震による被災地支援(2015年)、女性強制労働問題「ライ麦畑に囲まれて」、パキスタンの辺境に住む人々の普遍的な生活「清く美しく、そして強く」を対象に撮影。日本では、家族写真のシリーズ「ある家族」がある。最近はMPC(MIDNIGHT PIZZA CLUB)としても活動中。趣味はテニスとカラオケ。
Instagram:@abe_yusuke