2023.1.24

「Trail Dogs」
愛犬家たちの座談会 and wander journal #58

冬のある朝。「Trail Dogs」展の参加者から、尾崎光輝さん(Jindaiji Mountain Works)、村上卓也さん(Gris by muraco)、渡辺友郎さん(Tacoma Fuji Records)、森美穂子(and wander)が集まり、叶った座談会。連れてきた愛犬たちを遊ばせながら、愛すべき犬と、それを取り巻く環境について、あんなこと、こんなことを話しました。犬との楽しい暮らしを失わないために、私たちは、どうすればいいだろう? できることは、なんだろう? これから時間をかけて考えを重ねていきたい、そんな初回の記録です。

単純な話ではなかった。

森美穂子(and wander):最初は単純に、私自身がブーとハイキングに行って楽しかったから、それをおすすめするような企画をやろうと思ったんですよね。ところが、山に犬を連れていくことに対するアンチがすごくあるってことを知ったんです。調べると実際、たとえば長野県の公園法では、県内の国立公園、国定公園、県立公園に、犬を入れてはいけないことになっている。そういう背景もあるなかで、犬と山に行こうって無邪気に言いづらいんだなあって。ルールで規定されていなかったとしても、マナーの問題もあるし、犬が好きじゃない人だっているわけで。

「and wander」の森美穂子は、愛犬ブーという要素が加わり、アウトドアがますます好きになったという。

尾崎光輝(Jindaiji Mountain Works):僕が考える犬とのつき合い方って、一般常識と違って、レアケースだったりするんですよね。家の裏がすぐ山っていう環境に住んでいるから、街で生活している人からすると、僕と犬の関係性はリアリティがないし、違和感もあるかもしれない。それがわかっているからこそ、愛犬のミンガスと山に入ったりしても、SNSにはあんまり上げないようにしています。グレーにしておく部分っていうのも、じつは大事かなとも思うので。犬とのつき合い方って、人それぞれだからね。

クラフトギアメーカー「Jindaiji Mountain Works」の尾崎光輝さん。愛犬は、オランダ生まれの希少な犬種、コーイケルホンディエのミンガス。

森:ね。最初は、おすすめのハイキングルートを紹介し合えたらと思ってたんだけど。自分が大切にしている場所に、モラルの基準が違う人たちがやってくることで、そこで遊べなくなってしまうかもしれない。だから、秘密にしておきたいっていう声も出ましたよね。

犬を飼うのは、諦めたほうがいい!?

尾崎:犬を飼う環境っていうのが、じつはとても厳しくなってきている。たとえば三鷹市は、公園に犬を入れたらいけないんだって?

村上卓也(Gris by muraco):へえ、そうなんだ!?

アウトドアブランド「muraco」を主宰する村上卓也さんは、愛犬グリの名を冠したドッグアクセサリーライン「Gris by muraco」を2022年にローンチ。

渡辺友郎(Tacoma Fuji Records):実際、連れてきている人はけっこういますけどね。犬を入れないでくださいって、看板には注意書きがあります。俺は喫煙家なので、タバコに置き換えると腑に落ちるんですよ。以前は喫煙可だった居酒屋が、ある日から禁煙になったり。街自体、喫煙ができなくなっていたり。でもそれって、喫煙家のマナーの悪さに起因する部分が大きい。これを犬と公園の話でいうと、犬のしつけやマナーがなってない飼い主がとても多い結果がいまの状況なんだと思う。以前住んでた街から三鷹市に引っ越してきてびっくりしたのが、犬のウンチが道にけっこう放置されてるんですよ。それって、自分の住む街への帰属意識が低いからできちゃうことなんじゃないのかなって。つまり、公共の場に対する意識を変えていくのって大事だなって。

Tシャツなどのウェアのレーベル「Tacoma Fuji Records」の渡辺友郎さんは、ビーグル犬の獅子丸を家族に迎えてから生活が変わったという。

尾崎:結局、ひとりでもマナーの悪い人がいることによって、全員締め出されちゃうっていうね。去年まで犬連れOKだったところが今年から禁止になったところも実際あるし。すでにいま犬を飼っちゃっている人に対してウンチ片づけようとか言っても、無理だと思う。で、僕が思うに、これから犬を飼おうとしている人に向けて情報を発信していったほうがいいんじゃないかってこと。ウンチ処理するなんてことは当然のこと、マナーを徹底してもらいたいし、そもそも犬を飼うってとてもハードルが高いことでしょ。毎日散歩に行かなくちゃいけないし、旅行も行けなくなるし、とにかく犬っていうのはめちゃくちゃ手がかかる。犬ってかわいいところばっかり注目されがちだけど、それはほんの1割で、あとの9割は面倒くさいことばっか。それでも飼うの?っていうところ。手がかかることを楽しむくらいじゃないと、犬を飼うのは諦めたほうがいいってくらい。

渡辺:うんうん。俺、犬を飼おうと思うんだけどって友人にカジュアルに言われたとき、気を悪くされるくらい本気で止めたことがありますよ。でも、いまの話にヒントはすごくあると思う。こんなに楽しいんですよってところより、事実を淡々と伝えるっていうのかな。

犬と人が共存する未来のために

尾崎:深刻な問題が起きてるってことに気がつくのも、たいがい飼っちゃったあとでしょ。飼う前に十分検討してない、勉強もしてない。僕らはまだグレーな状態でだましだましできてるけど、じゃあ20年後、30年後に、東京で犬を飼う環境はどうなっているか。リードは30cmまでとか、散歩させるときは猿ぐつわとか、そんな決まりができててもおかしくない。山もキャンプ場も、公園はおろか、公道で散歩禁止なんてことになるかもしれない。だからこそいきなり結論を求めるんじゃなくて、こうやって話したりして考える機会をもつのが大事だよね。犬と人が共存する未来のためにも、なにかしら次につながれば。

渡辺:なぜ場所によっては犬を入れちゃいけないのか、1回、しっかり議論を掘り尽くしたほうがいいと思うんですよね。行政がなぜその対応を是としているのかをしっかり把握するべきだと思う。「こんなルールはおかしい!」と主張する前に、なぜそんな決まり事ができたのか、どうすれば改善されるのかを考えるほうが、発展的なんじゃないかって、愛煙家の俺としては思うわけです。俺もマナーよくするから、もうちょっと吸わせてくれよ、と(笑)。

飼い主になるためのハードルを上げる

森:村上さんに訊きたいんですが、ブランドを立ち上げるということは、社会との接点になるわけじゃない? 個人で犬を飼っているぶんには自分の考えを公に言わなくてもいいけど、犬のブランドをつくるって、それをオープンにしていかないといけませんよね。

村上:本当は崇高なことを言いたいけど、角が立つので控えめにしているところはあります(笑)。ただ、ひとつだけポリシーにしているのは、生体販売している店にはうちの商品は卸しませんっていうのは言っています。そういうことを考えてるブランドなんだなっていうのはなんとなく知ってもらえるといいかな。

尾崎:スタンスとしてね。ペットショップの問題を考えているのは、犬を飼ってる人のなかでもそんなに多くないと思う。

村上:犬を飼うのは大変だからこそ、店で簡単に犬を買える現状には異を唱えたい。無理のない範囲で繁殖させる適切なブリーダーがいて、犬と一緒じゃないとダメだっていうくらい、犬と密接に生活する人だけが、そういうところから犬を譲ってもらえるような。犬を飼うにあたっての敷居は上げたいですよね。ただ、それが実現されればされるほど、自分の商売は上がったりになっちゃうっていう矛盾を抱えることになるんですけど。

森:ペットショップの子犬至上主義も気になる。うちのブーとは保護シェルターで出会ったんですね。生後6ヶ月で、個性が明確になっていたからこそ、私のライフスタイルとばっちりマッチングできたんです。一瞬のかわいい子犬期を見られないのは残念だけど、親きょうだいと一緒にのびのびと社会化期を過ごすのは犬にとってとても大切。だから、犬とのこういう出会い方がもっと普通のことになったらいいのにって思います。

尾崎:僕も本当は、犬を飼うのはライセンス制にするべきだし、税金払ってもいいと思う。そういう負担があっても飼いたいっていう人以外は飼えないようにしてもいいんじゃないか。車だって税金はあるわけだしね。犬連れに際してのルールばかりどんどん厳しくなって、飼う側の整備が全然できてないんですよ。飼い主になるためのハードルを上げる方向にしたほうが、ルールやマナーも含めてトータルでよくなっていく気がするんだけどな。みんな、飼ってから勉強するでしょ。山や公園に連れていっちゃいけないなんて、飼う前は知らないでしょう。

生活は、どうしたって犬中心になる。

尾崎:でも、ハイランドの山に犬を連れてきてる人っていうのは総じてマナーがしっかりしてると感じるけどね。タフな状況に連れてきてるから、しっかりコントロールできてるっていうのかな。だって、自信がなかったら山深いところに連れてこられないと思うから。

渡辺:だから俺は絶対連れていかないもん(笑)。

尾崎:自分と犬との関係で判断するよね。僕がミンガスをドッグランに連れていかないのは、この子は他の犬と遊ぶことに興味がないってわかったから。ミンガスは、休み時間は教室の隅で本を読んでるタイプの女の子なんだよ(笑)。犬っていうのは他の犬たちと追いかけっこして駆け回るのが好きだって、ついイメージしちゃうけど、みんながみんな、そうなわけじゃない。それに、ミンガスとキャンプ場に行かないのは、テントの中では外の物音に唸るから。だから車を改造して、車中泊に切り替えたんです。

渡辺:俺もね、1年半くらいトレーナーさんについたんだけど、うまくいかなかった。結論として、公共の場に連れていくと他人に迷惑がかかるから、獅子丸とは出かけずにずっと一緒に家にいようって決めたんだ(笑)。それで俺も獅子丸も幸せなんだから、いいやって。

尾崎:その子の性格に合わせて、飼い主が行動を変えていけばいいんだよね。

森:それができればいいですけど、全員が全員、そういうわけにもいきませんよね。

渡辺:共働きだったり、お勤めだったりすると、難しいこともあるよね。そういう人が犬を飼ってはいけないとはいえないけど、もしかしたら、まだ犬を飼うというタイミングではないのかもしれない。生活のなかで、犬の優先順位をなるべく上におけるといいですね。

展示「Trail Dogs」の詳細はこちらから

プロフィール

尾崎光輝(Jindaiji Mountain Works)

東京・高尾を拠点に、シンプルで軽量なバックパッキングギアを製作するクラフトギアメーカー。タープやハンモック、ウェアやクッカーなどのほか、オランダ生まれの希少な犬種、コーイケルホンディエの愛犬ミンガスとのフィールドワークで生まれた機能性にすぐれたドッググッズも展開。

渡辺友郎(Tacoma Fuji Records)

2008年、「実在しない音楽のマーチャンダイズ」をプロダクト化することを目的としてレーベルをスタート。ミュージシャンや芸術家、アパレルブランドとのコラボレーションなども含め、ファッション、カルチャーと「普通の生活」の隙間をボーダーレスに活動中。

村上卓也(Gris by muraco)

アウトドアブランド「muraco」をベースに、2022年9月に誕生したドッグアクセサリーのラインには、愛犬の名を冠した。muracoで培った適切な素材選定、細部にまでこだわった使い心地を追求し、犬と人とのライフスタイルに自然に寄り添うプロダクトを展開する。

森美穂子(and wander)with Sloppy

「山や自然の中でも街と同じようにファッションを楽しみたい」という想いで2011年にブランドを設立。感性を刺激するモード感とアウトドアウェアとしての実践的な機能性を追求したものづくりを展開。今回の展示のために、ハンドメイドのドッグタグメーカー「Sloppy」と共同でチョーカーを製作した。

edit PAPERSKY
text Mick Nomura/ photopicnic
photography Jiro Fujita/ photopicnic