2026.01.16

EXHIBITION 18
“New land, new me”
Eriko Nemotoand wander journal #92

山や自然のなかを歩き、写真作品を制作するフォトグラファー・根本絵梨子さん。これまで国内外のさまざまな山や風景を撮影してきました。根本さんが2025年にアイスランドを旅して撮り下ろした作品を、「New land, new me」展としてand wander OUTDOOR GALLERYにて展示開催中です。
旅で出逢った風景を写真に残すこと。作品として形にすること。そのプロセスについてお話をうかがいました。

会期:2026年1月10日(土)〜1月18日(日)
11:00〜20:00 ※最終日は18:00まで
場所:and wander MARUNOUCHI 内 and wander OUTDOOR GALLERY
東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル1F

INTERVIEW

――今回の「New land, new me」展は、根本さんがアイスランドのロングトレイル・ロイガーウェーグルを歩いた記録から構成されています。その旅については、すでに記事公開をさせていただきました。
今回は、写真家として「写真を撮ること」「作品をつくること」についてうかがいます。

根本:はい。お願いします。

――これまで個展で発表されてきた作品はすべて「山」「自然」「旅」にまつわるものでした。根本さんにとって、旅と写真の関係はどのようなものなんでしょう。

根本:よく聞いていただくのが、「撮影をしに旅に行くのか。それとも行動が先にあるのか」ということなんです。私は、完全にやりたいことや行きたいところが先にあって、写真はそれにくっついてくるものなんですね。

――撮りたいもの、モチーフがあって行動するわけではない。旅がしたいから、そこにあとから写真が作品として残っていくんですね。

根本:そうなんです。もしかしたら写真を撮らないこともあるかもしれない。でも、これまで撮らなかったことはないですし、カメラを置いてくのは無理なんですけど。
旅先のこともあまり調べないで行くんですよ。旅って、何に出逢えるかわからないし、撮りたい写真が先にわかるはずがない。行ってみないとわからない。もし、「こういう写真を撮りたい」と思って行ったとしたら、知っている風景しか撮れなくなってしまうような気がしています。基本的には、何に出逢うかという楽しみが最初にあって、それに感動した瞬間にレンズを向ける、みたいな感じで撮影しています。

――アイスランド旅のインタビューでは、ロイガーウェーグルの一般的なルートをあえて逆方向から歩いたから出逢えた景色の変化があった、というお話にもつながりますね。また、展示名のサブタイトルに「I don’t know what there is,so I just walk.」と付けられたのも、そんな思いがあるからなんですね。

――そうして撮影してこられたアイスランドの写真。今回の「New land, new me」展では、何百という写真から選んだ数十点の作品が展示されますね。

根本:今回の雰囲気は、初個展「今日はここまで」(2022年)に近いかもしれません。「絵のような抽象的な写真を作る」というのが、初個展のとき裏テーマとしてあって。自分自身、写真展を見に行ったり、写真を家に飾らないほうなんですよ。絵だったら、見に行きたいものや欲しいものがいっぱいあるんですけど。

――そうなんですね。逆に、絵を描いてる人が絵を飾らずに写真を飾る、という逆の話を何度か聞いたことあります。

根本:ないものねだりなのかもしれないですね(笑)。私は大学では芸術系の学部で建築を学んでいたんですが、ファインアートの日本画、洋画をやっている友人が多く、その子たちの作るものや個展の風景に憧れていたのかな。
絵を飾るのは想像ができるけど、写真はどう飾ればいいんだろうと思いつづけて、作品にしたのが「今日はここまで」なんです。

2022年に開催した個展のDM。

――この氷河の写真は、確かにパッと見たら絵に見えますね。

根本:おもしろかったのが、会場で「この絵は……」と何人かの方に話しかけられて、内心「やった!目指してるとこだ!!」と思ってました。

――写真展なのに(笑)

根本:「New land, new me」展は「今日はここまで」展のときのような、絵のような写真のような、どちらにも受け取れる表現に近いんじゃないかな、と思っています。

――根本さんの作品発表のスタイルで特徴的だなあ、と感じることがあって。それは、額をひとつの作品として一緒に展示販売する、ということなんです。

――写真作品を販売する場合は、額はオプションの場合が多いかと思うんですが、根本さんの場合は写真の世界観に合わせた額をひとつひとつ自らディレクションして木工作家や額装店に依頼して制作しています。料理人が自分の料理が美しく見える器を選ぶ、みたいな感じなんでしょうか。

根本:料理人と器……。そうかもしれません。通常、フレーム屋さんにある額って写真より目立ってはいけないように考えて作られているので、木製のものでも木目が見えなかったりとシンプルなんですね。私は、家に飾ることを考えた場合に、額ってしばらくそこにあるじゃないですか。それって、家具と一緒だな、と考えていて。フレームはただのフレームではなくて、私の中では家具ぐらいの位置にあってもいいんじゃないか、と思っているんです。
木の質感や木目が好きなので、そうした好きな質感をどうしても見せたくて。最初の個展ではそうしたこともあり、MOBLEY WORKSの鰤岡力也さんに依頼して作ってもらいました。

「家具のような額を」と依頼したのは、根本さんが敬愛するMOBLEY WORKSの鰤岡力也さん。根本さんの写真の空気感をみごとに汲み取り、天然木の美しいフレームを制作してくれた。

根本:「New land, new me」展では、木の額とは違うテイストの額も用意しているんですよ。シンプルなアルミの額をグレーで塗装しているんです。とういのも、アイスランドの風景が絵の具で塗ったみたいな色の種類が少ない世界で。なので、その色を見せたいなと思っていて、木の額だと茶色が入ってきてしまう。あと、アイスランドを歩いている時、木ってあんまりなかったんですよ。無機質なほうが似合うなという考えがあって、友人に依頼してグレーに塗装してもらいました。

――写真を引き立てる額のありかたは興味深いですね。もうひとつ、根本さんの写真作品でかっこいいな、と思っていたのがシルクスクリーンプリントです。

根本:これは、グラフィックユニット・ZONSHANGの本多伸二さんに刷っていただいています。自分の作品というよりは本多さんなしではできない合作で、今回が3作目になります。

――シルクスクリーンはよく聞く言葉ですが、実際どのように作られているのか私自身もあまりわかっていません。今回、本多さんのアトリエにお邪魔して、刷り上がる工程を見せていただいたので、ちょっと振り返りましょうか。

本多伸二さんのアトリエを訪ねた根本さん。本多さんはグラフィックデザイナーとして活躍しながらも、シルクスクリーンのプリンターとして、ご自身がデザインしたモチーフや身近で活動するアーティストの作品のプリントを手がけ、シルクスクリーン作品の可能性を追求する

本多さんのアトリエ。壁には、根本さんと合作したシルクスクリーンプリント2作が額装して飾られていた。

シルクスクリーンに使う塗料と、メッシュ状のシートで作られた版。本多さんのアトリエは、デジタルとアナログな材料が自由に交差するワクワクする空間。

手前は2023年7月の個展「今日はここまで」(PADDLERS COFFEE)にて制作したシルクスクリーンプリント。根本さんの写真から本多さんが感じたという「写真のような絵のようなすごくイイ感じの温度感」を表現するべく、印刷表現の基本であるCMYK4色による分解ではなく、本多さんのディレクションにより7色にまとめた特殊分解でのプリント。奥は、2025年6月の個展「Tramping Te Araroa and more!」(e2 gallery)で発表した9版によるプリント。根本さんの写真作品をシルクスクリーンでプリントする場合、本多さんが写真を選ぶ。パソコン上でどのように版を分けるかを考え、それぞれの版をどのような色で表現するかまで綿密にシミュレーションしてプリントに挑む。何度も試作するうえ、センス、技術、経験が必要なものづくりだ。

「『Tramping Te Araroa and more!』のときは、湖の奥にそびえ重なる3つの山の層をそれぞれ3つの色相で塗り分けました。その3層を繋ぐように微妙な色相差の青緑の網を組み合わせ、木版画のように版を分割しながら最終的に写真に戻るような見え方を意識しました。間近と引きで見る印象が異なる面白いプリント作品に仕上がったと思います」(本多さん)。手作業のため数10部限定。毎回、あっという間に売れてしまうという。

今回、本多さんがシルクスクリーンで表現してみたいと選んだのは、雪渓をところどころに残した丘陵の写真。これまでの2作は氷河や湖といったどこかみずみずしい要素があったが、荒涼たる風景というセレクトに「どうなるか楽しみ」と根本さん。壁に貼られた見本のように7版にわけ、灰色、黒色、黄土色、少しずつ色味の違う茶色〜赤茶色など、使用する塗料も本多さんがブレンドした。「この色をブレンドする工程が一番大変なんですよ。写真に忠実に色を再現するのではなく、僕の方で再編集しているというか。特に、根本さんの写真ってシンプルなようでいてどの色がいいのかっていうのは、なかなかすぐにはわからないんです」

版(スクリーン)に塗料をのせ、スキージでぐっと押し付けるように1枚1枚力強く、色をのせていく。すぐに吊るして乾燥させては、また次の版刷りへと進む。緻密なシミュレーションはしているとはいえ、本多さんも想像とは違う場面があるという。版刷りを重ねるうちにどんどん浮き上がっていく絵柄を隅々までチェック。「いいかんじです!」との本多さんの言葉に根本さんも取材班も沸き立つ。

「よくよく近づいて見ると、どのように版、色が重なっているかわかっておもしろいですよ」と本多さんから聞いて、ルーペで刷り上がったものをのぞく根本さん。写真プリントとはちがうシルクスクリーンならではの解釈に、「かっこいい!」とコラボレーションする楽しさと、クオリティの高さに興奮を隠せない。「繊細な表現はオフセット印刷の方が抜群に高いんですよ。シルクスクリーンって、明らかに紙の上にインク・塗料が乗っかっていて質感がある。そうした質感で写真を再現しているのがシルクスクリーンの魅力のひとつかなと思うんです」(本多さん)

「根本さんが肉眼で見た風景。それを、カメラで撮る。そこで 1回フィルターが挟まりますよね。次に根本さんがフィルムを持って帰ってきて、ネガをまた見るじゃないですか。それって、肉眼で見た時とも違うし、ファインダーで覗いた時とも違う風景がそこにあって。また、そこからいいなと思って選んだものをプリントとして引き伸ばす作業に入りますよね。そこにもう1回フィルターを挟んでいる。シルクスクリーンは、そうして作品をブラッシュアップしていくフィルターの一種だと思うんです。なので合作ではありますが、私はプリンターとして根本さんの作品を再編集、再表現する黒子だと思っています」(本多さん)
今回のシルクスクリーンプリントのできあがりは、個展会場でのお楽しみに。

――今回は、根本さんが写真を作品という形にすることについてお話を伺いました。「絵のような写真」が裏テーマであるということ、住まいになじむ家具のような額を作っているということ、写真を再編集したシルクスクリーンという表現からは、写真が「作品」「アート」として前に出過ぎず、日常にふとある心地よい自然のような寄り添い方だと感じました。

根本:家に飾って、誰かの日常が少し楽しくなったり、疲れた時に少し癒されるようなことがあれば本望です。この写真を見てふと旅に出よう!という気分になったらそれも嬉しいです。

――自然と日常をつなぐ空間を目指すand wander OUTDOOR GALLERY。根本さんがアイスランドで感じた「New land, new me」という感覚を追体験できることを楽しみにしています。

PROFILE

根本 絵梨子

群馬県出身。大学で建築を学び、就職を機に写真の道へ。スタジオ勤務やアシスタント業を経て2016年よりフリーランスの写真家としてアウトドア、旅、ファッション、ポートレイト、建築など様々なジャンルで活動している。ライフワークとして山々を歩き、ヒマラヤ、パタゴニア、ニュージーランド、北欧などで写真を撮り、夏は国内の山小屋で働くなど、アウトドアフィールドを旅する生活を送る。主な展示に2022年〜「今日はここまで」(富山、東京)、2024年「Tiny pieces on Te Araroa」(テラススクエア/東京)、2025年「Tramping Te Araroa and more!」(e2 gallery/東京)などがある。

edit・text Tomoko Yanagisawa
photography Shinsaku Yasujima