2023.3.17

muraco × and wander
collaboration interview
about new tent “HERON”and wander journal #60

and wander初となるテント「HERON(ヘロン)」が3月17日に発売される。
このテントを開発するうえで、デザイナーの池内啓太がパートナーとして選んだのが〈muraco〉。金属加工会社から生まれたというちょっと異色のアウトドアブランドだ。0.01mmまでこだわった〈muraco〉の金属加工の精度と、数々の独創的なテントを生み出してきた経験。池内のウェア作りで培ってきた生地やデザインのノウハウと、みずからのキャンプ経験。この2者が協力して生まれたテントは、いったいどのようなものなのか。and wander池内啓太と、〈muraco〉を運営する株式会社シンワ代表取締役社長の村上卓也氏の対談で紐解いていきたい。

―お二人が知り合ったのは、約1年前に始まった、このコラボテントプロジェクトがきっかけだそうですね。

and wander 池内啓太(以下、池内):僕がいきなりインスタグラムでダイレクトメッセージを送ったんですよね(笑)。

村上卓也氏(以下、村上 ※本文中敬称略):実は、その連絡をもらう一週間前くらいに、社員たちと「うちもそろそろコラボとかしたいよねえ」という話をしていて「例えばand wanderさんとかとできたら最高だねえ」なんて、みんなでしゃべっていて。

池内:すごいタイミングでしたね。

村上:嘘みたいなホントの話。すぐに社員全員集めて発表ですよ(笑)。

―なぜmuracoさんに声をかけたんですか?

池内:前々からテントを作りたいとは思っていて、最初は自前でやれちゃうんじゃないかなと考えていたんですが、やはり洋服とはノウハウがかなり違うことがわかってきた。なおかつ、テントポールを海外メーカーに発注しても、メタルショックなんかもあって、デリバリーが3年後になると言われてしまって。だから、国内でポールも作れて、さらにテント作りの経験もあるmuracoさんしかいないな、という感じでしたね。作るプロダクトにも共感するところが多かったのも大きかったです。

村上:どのへんに共感してくださったんですか?

池内:たとえばペグハンマーとか焚火台、あきらかに他社製品とはぜんぜん違うじゃないですか。そういう既成概念に囚われていないところですかね。

―このテントを開発するときに村上さん的に難しかったところとかはありましたか?

村上:難しいことはあまりなかったですね。お話をもらった時点から池内さんの中で「こうしたい」というような構想やディティールがかなり固まっていたので、それを形にしていく感じでした。

池内:でも、そのぶんディティールへのこだわりは強かったですよね。

村上:そうそう。細かいパーツの指定とか。

池内:やはりand wanderのアイコンでもあるリフレクターは入れたかったですしね。

村上:結果、末端すべてにリフレクターが入っている贅沢仕様です。

―テントとしての新しい仕組みもあるんですか?

池内:単純にテントにロゴを付けて売るようなことは絶対にしたくなかったんです。僕はこの手のワンポールテントをいろいろ使ってきたんですが「ここがこうなってれば」という思いもあって、この「ヘロン」ではそれを形にしていったんです。

村上:インナーテントの仕組みは面白いこと考えるなあと思いましたね。

池内:通常のワンポールのテントって、立てる手順としてはまずインナーをポールで立ち上げて、その上にフライシートを被せるんですが、それだと雨の時とかに設営すると、どうしても中が濡れてしまうんです。それをなんとかできないかなあとずっと考えていたんですよね。そこで思いついたのが、インナーの頂点とボトムにトンネルを作って、後からインナーを吊り下げられる仕組みです。

村上:これだったら、設営の時に濡れないのはもちろん、撤収の時にも中のものからどんどん片付けていけて、最後にフライシートを撤収できますもんね。慣れたキャンパーだと、雨の日はタープを最後まで残しておいて撤収することが多いけど、それをテント単体でも実践できる感じですよね。サイズ感にもかなりこだわってましたよね。

池内:この手のセンターポールテントって、幅が260~280cm程度のモデルが多いんです。これはたぶん、生地幅規格の効率が大きい理由だと思うのですが、これだとキャンプで積極的に使おうとすると微妙に小さい。4人がゆったり寝ることができて、テント内でラクに立てる210cmの高さを出そうとすると、幅は330cmほしかった。

村上:僕が発注している工場にそのサイズでやれないか、と相談してサンプルを280cmと330cmの2種類作成してもらったら「ぜったいに330cmのほうがいいね」という話になったんですよね。

池内:たった50cmなのにぜんぜん居心地の良さが変わりましたよね。

村上:もともと、muracoのテントでもいろいろと面倒な注文してましたから、縫製工場さんもある程度は覚悟していたんじゃないですかね(笑)。

池内:開口部も前後でフルオープンできるようになっています。これだったら立ったままで簡単に出入りできますし、夏場でもしっかり風が抜けます。

―テントの側面に英語のメッセージが入ってますね。日本語訳すると「私たちは、アウトドアをより深く楽しんでいただくために、私たち自身が考えた新しい製品に、情熱と技術を結集しました。この製品が私たちの想いを感じていただくだけでなく、アウトドアの楽しさを感じていただくための鍵になると信じています」

池内:このメッセージは村上さんに考えてもらいました。

村上:口に出すと恥ずかしい感じですよね(笑)。

池内:でも、muracoさんとコラボしたのってそういう思いも大きかったですよ。くわえて最初に工場をみさせてもらった時に、クオリティに対して妥協しないというプライドも感じました。

―「HERON」という名前は?

村上:ファーストサンプルができたときに、近くの公園に一緒に試し張りをしにいったんです。その時に、シラサギの野営地があって、それを池内さんが覚えてたんですよね。

池内:そう。名前の候補を考えたときに、その風景を思い出して、シラサギって英語でヘロンというんですが、言葉の響きもいいなと。メインポールで立てた後に、サブポールでサイドを立ち上げて屋根のようにアレンジすることができるんですが、その様子もちょっと鳥が羽を広げるような印象があったので、もともと鳥の名前から商品名を付けたいというのもあったんです。

―今回のテントポールはゼロから作ったオリジナルということですが。

村上:そうです。しかも材料から新しくand wanderのために作っているオンリーワンの存在です。

池内:仕上がりが他社のものとは段違いで驚きました。

村上:もともと金属加工の会社ですからね。そのへんに関しては意地みたいなものもありますよ。

池内:たかがポール、と侮りがちですけど、これは物体としての美しさがありますよね。

村上:そういっていただけると嬉しいなあ。でも、池内さんのアイデアがあってこそなんですよ。アイデアさえあれば、うちはどんな形にも加工する自信はあります。

池内:工場も、ものすごい設備ですよね。

村上:うちは最新鋭の機械を入れて、誰でも最高品質の金属加工ができるように、という方針なんです。

池内:0.01mmの誤差が品質を分ける世界なんですもんね。そういうクオリティでテントポールを作っている会社って他にはなさそうですよね。

―異業種同士コラボしてみてなにか発見などはありましたか?

村上:やっぱり勉強になることが多かったですね。金属加工の会社でありながら、テントなどを作っていたんですが、やはり布に対する感覚などは、池内さんとディスカッションしていくなかで、新しい発見がたくさんありました。たとえばサンプルでシワが入ってしまっていたんですが「ここの作りをこう変えれば解決できる」というようなことですね。物作り以外にも生産管理やPRの仕方など、とにかく学びが多かったです。

池内:村上さんの、つねに新しいことに挑戦する姿勢は見習いたいなと思いました。ほかにも経営者というリーダーとしてのありかたなど、仕事面でももちろんなんですが、それ以外にも大事なものを受け取っていると感じています。

―今後の展望は?

池内:実はすでに準備ははじめていて、今後も継続してテントは出していきたいと思っています。例えば山岳用のものなんかも作っていけたらいいですね。

村上:山岳用テントのポールを自社で作れる機械も導入したので、こちらは準備万端です(笑)。

photography Momoka Omote
text Takashi Sakurai